野沢尚「烈火の月」 [日本の小説]
野沢作品は,
「破線のマリス」に始まり,
「リミット」「深紅」「砦なき者」「魔笛」と,
破滅へ向かって突っ走る犯罪者が作者に乗り移ったかのようなリアリティに圧倒され,
引きずり込まれるように呼んだ記憶がある。
気がつけばすでに4年が経とうとしているが,
2003年の6月に作者が自ら死を選んで以来,
読むと悲しくなる気がして,
野沢作品は読んでいなかった。
先日,この「烈火の月」を,本屋でたまたま見かけて手に取った。
何やら複雑な来歴があるらしく,
また山田太一が解説で,「烈火の月」は傑作である,と言い切っている。
それならば読んでみようか,という気になった。
2002年~2003年,週刊ポストに連載されたもので,
亡くなる5ヶ月前に出版された単行本の文庫化。
来歴は「単行本のためのあとがき」に詳しい。
要するに,
当初は深作欣二監督のために映画のシナリオとして書かれたのだが,
諸事情により主演の北野たけしが監督を兼任することとなり,
「その男,凶暴につき」という映画になったときには,
元のシナリオはもはや形をとどめず,
その後の紆余曲折を経て,小説として新しく生まれ変わったものなのだとか。
出だしはユーモアたっぷりで笑えるのだけれど,
2章の途中から俄然どろどろした世界が展開し始める。
「烈火の月」つまり赤い月に照らされながら
かなしみと怒りで泥まみれになって苦闘する登場人物たちの世界に,
またまた作者自身が
どっぷりはまってしまったかのようだ。
そして読むこちら側も,ずるずると引きずりこまれ,
一気呵成に読んでしまった。
読後感は,爽やかさとは対極にある。
けれども,カタルシスは確実にある。
「魔力」とでも呼ぶべき何物かを感じてしまうのは,
半年後の作者の運命を知っている故の先入観か。
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