あさのあつこ「バッテリー」 [日本の小説]
加納朋子「レインレイン・ボウ」 [日本の小説]
文庫の利点は,二つある。
まずは当然だが,小さくて軽くて安いこと。
だが第二に,解説がつくというのも重要だ。
おいしい料理の後は,
おいしいコーヒーで余韻を楽しみたい。
よい解説は,良質のコーヒーのようなもの。
単行本では得がたい楽しみである。
だから解説の執筆者が悪いと最悪。
料理がおいしくても,泥のようなコーヒーを最後に飲まされたのでは,
百年の恋も一瞬にしてさめようというもの。
「月曜日の水玉模様」の西澤保彦が書いた解説は酷かった。
一応作家なのだろうから(その「作品」は読む気も起こらんが),こんな酷いのを人前にさらしちゃまずかろう。
でもそれ以上に,せっかくの作品に味噌をつけられた加納さんがかわいそう。
それにひきかえ,
その姉妹編である本書の北上次郎さんの解説は,まったくもって素晴らしい。
加納朋子「月曜日の水玉模様」 [日本の小説]
好きな作家はあらかた読みつくし,
おまけにどういうわけか寡作な人ばかりなので,
数少ない新刊待ち。
新しい作家は,本屋で物色するもなかなか食指が動かず。
―そういう状態が,ここ数年続いている。
ところが2日前に,突然思い出した。
加納朋子がいたじゃん。
この人がまた寡作で,
1冊読むと次が出るまでに名前が記憶から遠ざかり,
しかもたまの新作も大々的に売りに出されるというわけではないので,
ついつい忘れていたのである。
「ななつのこ」
「魔法飛行」
「掌(て)の中の小鳥」
「ガラスの麒麟」
いずれも,
「珠玉」
という使い古された言葉が真正面からよく似合う作品だった。
そして,この「月曜日の水玉模様」
荻原浩「押入れのちよ」 [日本の小説]
山登りには,本が欠かせない。
行き帰りの電車,バス。夜の小屋やテント。
景色を眺めてぼうっとしていられる時間が過ぎると,
本がなければ所在ない。
持って行くのは,厚めの文庫本が最適。
薄いとすぐ読み終わって退屈。
ハードカバーを持って行ったこともあるが,
さすがにかさばって閉口した。
去年の黄金週間,涸沢へ持って行ったのが,
荻原浩「なかよし小鳩組」
そのちょっと前に「オロロ畑でつかまえて」を読んで気に入ったので持参した。
そしてこれが見事にツボにはまり,
厚さが足りなかったので帰宅途中に松本の本屋さんでもう1冊買って車中で読み,
帰宅後東京の本屋さんで買いまくり,読みまくることになる。
読みまくった結果,
最高傑作は「なかよし小鳩組」だという結論に至る。
(「オロロ畑でつかまえて」もその前に読んでおく必要あり)
なお,
いちばん話題となった「明日の記憶」は,
へそまがりゆえ,まだ読んでいない。
前置きが長くなった。
「押入れのちよ」である。
野沢尚「烈火の月」 [日本の小説]
野沢作品は,
「破線のマリス」に始まり,
「リミット」「深紅」「砦なき者」「魔笛」と,
破滅へ向かって突っ走る犯罪者が作者に乗り移ったかのようなリアリティに圧倒され,
引きずり込まれるように呼んだ記憶がある。
気がつけばすでに4年が経とうとしているが,
2003年の6月に作者が自ら死を選んで以来,
読むと悲しくなる気がして,
野沢作品は読んでいなかった。
先日,この「烈火の月」を,本屋でたまたま見かけて手に取った。
何やら複雑な来歴があるらしく,
また山田太一が解説で,「烈火の月」は傑作である,と言い切っている。
それならば読んでみようか,という気になった。